
日本の妖怪には、女性の姿で人間の前に現れるものが数多くいます。
一見すると普通の女性や美しい娘に見えても、近づいてみると恐ろしい正体を隠している。
そんな「女の姿と異形の正体」の落差は、日本の怪談や妖怪伝承で繰り返し描かれてきました。
一方、女性妖怪がすべて恐ろしい存在とは限りません。
山や沼の主として現れるもの、子どもへの思いを残した母親の霊、神として祀られる存在など、その性格はさまざまです。
この記事では、当ブログに個別記事がある妖怪の中から、女性・少女・老婆など、人間の女の姿が特徴となっている妖怪20体を紹介します。
- 1. 雪女(ゆきおんな)
- 2. 山姥(やまうば)
- 3. 二口女(ふたくちおんな)
- 4. ろくろ首(ろくろくび)
- 5. 絡新婦(じょろうぐも)
- 6. 濡女(ぬれおんな)
- 7. 磯女(いそおんな)
- 8. 産女(うぶめ)
- 9. 橋姫(はしひめ)
- 10. 鬼婆(おにばば)
- 11. 骨女(ほねおんな)
- 12. 毛倡妓(けじょうろう)
- 13. 高女(たかおんな)
- 14. つらら女(つららおんな)
- 15. 沼御前(ぬまごぜん)
- 16. 山姫(やまひめ)
- 17. 石妖(せきよう)
- 18. 文車妖妃(ふぐるまようひ)
- 19. 笑般若(わらいはんにゃ)
- 20. 天井下り(てんじょうさがり)
- 女性妖怪はなぜ怖い?
- まとめ
1. 雪女(ゆきおんな)
雪女は、雪の降る夜や雪山に現れる女性の妖怪です。
白い肌、長い黒髪、白い着物をまとった美しい女性として描かれることが多く、吹雪の中に突然現れます。
冷たい息で人を凍らせたり、雪山で命を奪ったりする恐ろしい伝承がある一方、人間の男性と夫婦になる話もあります。
美しさと死の恐怖を同時に備えた、日本を代表する女性妖怪です。
2. 山姥(やまうば)
山姥は、深い山奥に住む老婆の妖怪です。
道に迷った旅人を家へ招き、親切な老婆を装ったあと、夜になると本性を現して食い殺すという昔話で知られています。
一方、金太郎こと坂田金時の母として語られるなど、山の生命力や母性を象徴する存在として描かれることもあります。
3. 二口女(ふたくちおんな)
二口女は、一見すると普通の女性ですが、後頭部にもう一つの口を持つ妖怪です。
表の口ではほとんど食事を取らない一方、後頭部の口が髪の毛を自在に動かし、食べ物を口へ運ぶとされます。
「食事をしない妻をもらいたい」と考えた男のもとへ現れる「食わず女房」の昔話とも結びつきます。
4. ろくろ首(ろくろくび)
ろくろ首は、夜になると首が異常に長く伸びる妖怪です。
昼間は普通の女性として暮らしているものの、眠っている間や夜になると首だけが伸び、家の中や外をさまようとされます。
伝承によっては、首が完全に胴体から離れて飛び回る「抜け首」として語られることもあります。
女性妖怪の中でも特に有名な存在です。
5. 絡新婦(じょろうぐも)
絡新婦は、美しい女性の姿に化ける蜘蛛の妖怪です。
長い年月を生きた蜘蛛が妖力を得て美女に化け、男を誘惑すると語られます。
油断した人間を蜘蛛の糸で絡め取り、命を奪う恐ろしい存在です。
静岡県の浄蓮の滝をはじめ、滝や淵と結びついた伝承も残されています。
6. 濡女(ぬれおんな)
濡女は、海辺や川辺に現れる女の妖怪です。
長く濡れた黒髪と女性の顔を持ち、その下には巨大な蛇のような体が続いている姿で描かれることがあります。
伝承によっては赤ん坊を抱いて現れ、通行人に抱かせます。
赤ん坊は次第に石のように重くなり、動けなくなった人間を濡女や牛鬼が襲うという話もあります。
7. 磯女(いそおんな)
磯女は、九州地方を中心に海岸や磯に現れる女性妖怪です。
長い髪を持つ美しい女性として現れますが、その髪で人間を捕らえ、血を吸うとされます。
地域によっては、下半身が蛇や龍のような姿とも語られます。
8. 産女(うぶめ)
産女は、出産によって亡くなった女性の霊が妖怪化したものです。
夜道などに赤ん坊を抱いた女性として現れ、
「この子を抱いてください」
と通行人へ頼みます。
赤ん坊を受け取ると次第に重くなり、最後には石や地蔵になっていたという話もあります。
一方、最後まで赤ん坊を抱き続けた人間に怪力や幸運を与えたという伝承もあります。
死んでも消えない母親の子への思いが怪異となった、悲しい女性妖怪です。
9. 橋姫(はしひめ)
橋姫は、橋を守る女神である一方、嫉妬によって鬼へ変じた女性としても語られる存在です。
特に有名なのが、京都・宇治橋の橋姫です。
夫や恋敵への激しい嫉妬から鬼になることを願い、貴船神社で祈願した女性が鬼女となったという伝承と結びつきます。
女性の嫉妬や怨念が鬼へ変わるという、日本の鬼女伝承を代表する存在です。
ただし、もともとは橋の守護神としての性格も持つため、単純な悪い妖怪ではありません。
10. 鬼婆(おにばば)
鬼婆は、老婆が鬼へ変じた妖怪です。
特に有名なのが、福島県安達ヶ原の鬼婆・黒塚の伝説です。
一見すると親切な老婆として旅人を家へ泊めますが、その正体は人を殺して食べる鬼。
家の奥には、これまで殺した人間の死骸が積み重なっていたと語られます。
山姥と似ていますが、鬼婆は「もとは人間だった老婆が悲しみや狂気によって鬼になる」という性格が強い存在です。
11. 骨女(ほねおんな)
骨女は、死後も愛する男性のもとへ通い続ける女性の怪異です。
本人や恋人には生前と変わらない美しい女性として見えるものの、第三者から見ると、その正体は白骨だったとされます。
死後も恋人を忘れられず、毎夜彼のもとを訪れる。
その愛情は次第に相手の生命力を奪っていきます。
美しい女性と骸骨という二つの姿を併せ持つ、恋慕と死の恐ろしさを象徴する妖怪です。
12. 毛倡妓(けじょうろう)
毛倡妓は、長い髪で顔を完全に覆った遊女姿の妖怪です。
鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれています。
後ろ姿だけを見ると美しい遊女ですが、振り返っても顔は見えず、そこには大量の髪だけが垂れ下がっています。
13. 高女(たかおんな)
高女は、異常に背の高い女性の妖怪です。
体を長く伸ばし、家の二階や遊郭の上階を外から覗き込む姿で知られています。
鳥山石燕の妖怪画では、長く伸びた女が二階を覗く姿が描かれました。
後世には、嫉妬深い女性が妖怪化した存在とも解釈されています。
14. つらら女(つららおんな)
つらら女は、秋田県などの雪国に伝わる氷の女妖怪です。
吹雪の夜、美しい若い女性が人家を訪ね、泊めてほしいと頼みます。
しかし風呂へ入ると女の姿は消え、そこには櫛と大きな氷柱だけが残っていたとされます。
雪女とよく似ていますが、つらら女は名前の通り「氷柱そのものが女になった」ことが分かる点が特徴です。
15. 沼御前(ぬまごぜん)
沼御前は、会津地方の沼に住むと伝わる美女姿の怪異です。
二十歳ほどの美しい女性として現れますが、その髪は二丈ほど、約6メートルにも達したと語られます。
猟師に撃たれたあと、沼から激しい水が噴き上がるなどの異変が起きたという伝承もあります。
16. 山姫(やまひめ)
山姫は、深い山の中に現れる女性妖怪です。
美しい女性として語られることが多く、人間へ笑いかけたり、山中へ誘ったりするとされます。
屋久島などでは、山姫につられて笑うと血を吸われたり、そのまま山から帰れなくなったりするという話があります。
17. 石妖(せきよう)
石妖は、伊豆の山中にある石切り場へ現れたとされる妖怪です。
美しい女性の姿をして石工たちに近づき、
「按摩をしてあげましょう」
と声をかけます。
女に按摩された人間は気持ちよく眠ってしまいますが、目を覚ますと体には石でこすられたような傷が残っていました。
18. 文車妖妃(ふぐるまようひ)
文車妖妃は、古い恋文や手紙に込められた情念が妖怪化した存在です。
鳥山石燕の『百器徒然袋』に描かれています。
古い手紙や文箱という道具の怪異でありながら、女性的な姿と「妖妃」という名前を与えられている点が特徴です。
誰かを思って書かれた恋文。
そこに込められた愛情や執着が、手紙そのものに残り続けて妖怪になる。
女性の情念と付喪神が組み合わさったような妖怪です。
19. 笑般若(わらいはんにゃ)
笑般若は、般若のような鬼女の顔で、不気味な笑みを浮かべる妖怪です。
葛飾北斎の『百物語』に描かれた姿で知られます。
角と牙を持つ恐ろしい顔でありながら、その表情は怒りではなく笑顔。
そのため、普通の般若以上に不気味な印象を与えます。
20. 天井下り(てんじょうさがり)
天井下りは、夜の家の中で天井から逆さまに姿を現す妖怪です。
鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれ、不気味な老婆のような姿で知られています。
普段は何もない天井から、突然女性の顔や体が垂れ下がってくる。
それだけでも十分に恐ろしい怪異です。
山や海ではなく、人間が最も安心できるはずの家の中に現れるところが、天井下りの怖さです。
女性妖怪はなぜ怖い?
今回紹介した女性妖怪にはいくつかのパターンがあります。
美しい女性に化けて近づく妖怪
絡新婦、山姫、石妖などは、美しい女性の姿で人間の警戒心を解きます。
しかし、その姿は仮の姿。
近づいたあとに蜘蛛、石、山の怪異といった正体が明らかになります。
「美しいものの裏側に何かが隠れている」という恐怖です。
怨念によって鬼になる女性
橋姫、鬼婆、笑般若などは、人間の女性の感情と深く結びついています。
嫉妬、恨み、悲しみ、執着。
そうした強い感情によって、人が鬼へ変わるという物語です。
妖怪が外からやって来るのではなく、人間そのものが怪物になるところに怖さがあります。
自然が女性になって現れる妖怪
雪女、つらら女、山姫、沼御前などは、雪、氷、山、水といった自然と結びついています。
昔の人々にとって自然は、恵みを与えてくれる一方で、簡単に人の命を奪う存在でした。
美しい女性の姿と、自然の恐ろしさ。
その二つが重なった存在といえるでしょう。
母や妻の姿をした怪異
産女や二口女のように、家族や家庭の中に現れる妖怪もいます。
母親、妻、子ども。
人間にとって最も身近な関係が怪異へ変わるため、山奥の怪物とは違う怖さがあります。
まとめ
日本には、女性の姿で現れる妖怪が数多く伝えられています。
彼女たちは、ただ「女性の姿をした怖い妖怪」というだけではありません。
美しさ。
母性。
嫉妬。
恋愛。
老い。
自然への畏れ。
人々が女性という存在に重ねてきた、さまざまな感情やイメージが妖怪の姿になっています。