ヨゲンノトリは、幕末の疫病流行を予言したとされる双頭の鳥。『暴瀉病流行日記』に描かれた姿やアマビエとの違いを紹介します。

ヨゲンノトリ
概要
ヨゲンノトリは、白と黒の二つの頭を持ち、疫病の流行と災難を逃れる方法を告げたとされる予言獣です。
山梨県立博物館が所蔵する『暴瀉病流行日記』には、その姿と当時広まっていた風説が記録されています。それによると、安政4年(1857年)12月、加賀国の白山に二つの頭を持つ烏が現れ、翌年の8月から9月にかけて多くの人が亡くなる災難が起こると予言しました。
さらに、この鳥の姿を朝夕に仰いで信心すれば、災難を逃れられると告げたとされています。
ただし、原史料にはこの鳥の固有名が記されていません。「ヨゲンノトリ」は、山梨県立博物館が現代に紹介する際に用いた呼称です。江戸時代からこの名前で呼ばれていたわけではありません。
姿
- カラスに似た黒い鳥の姿。
- 一つの胴体に二つの頭を持つ。
- 一方の頭は黒く、もう一方は白い。
- 二つの頭は左右に並んでいる。
- 翼、脚、尾は一般的な鳥に近い。
- 人間や獣の顔は持たない。
『暴瀉病流行日記』の図では、黒い鳥の胴体から白黒二つの首が伸びています。白と黒の頭が何を意味するのか、史料には詳しく書かれていません。
能力・習性
- 将来起こる疫病を予言する。
- 疫病によって多くの人が亡くなることを告げる。
- 自らの姿を朝夕に仰ぐよう人々へ勧める。
- 姿を信心する者は災難を逃れられると伝える。
- 熊野七社大権現の神威を示す烏とされる。
- 人を直接襲う行動は伝えられていない。
ヨゲンノトリは、疫病を引き起こしたり人を襲ったりする存在ではありません。迫りくる災厄を知らせるとともに、その難を逃れる方法まで人々へ伝える、予言と疫病除けの性質を持つ霊鳥です。
代表的な伝承
甲斐国市川村の名主・喜左衛門が記した『暴瀉病流行日記』には、安政5年(1858年)に流行したコレラの状況とともに、不思議な鳥の風説が書き留められています。
- 安政4年12月、二つの頭を持つ烏が加賀国白山へ現れた。
- 鳥は翌年8月から9月ごろ、多くの人が亡くなる災難が起こると予言した。
- 自分の姿を朝夕に仰ぎ、信心する者は難を逃れられると告げた。
- この鳥は熊野七社大権現の神威を示す烏だと伝えられた。
- 翌年になると、甲斐国でもコレラが流行した。
- 喜左衛門は、鳥の話を疫病流行の記録とともに日記へ書き残した。
この記録は、喜左衛門本人がヨゲンノトリを目撃したという内容ではありません。当時の人々の間に広まっていた風説を、コレラ流行の状況とともに書き留めたものです。
そのため、ヨゲンノトリは特定の人物による目撃談から生まれた妖怪というより、疫病への不安が広がるなかで語られた予言獣と考えられます。
各地のバリエーション
- なし
現代作品での登場
- 絵本『ヨゲンノトリ』
ヨゲンノトリを題材にした絵本。幕末に流行したコレラと現代の感染症流行を重ねながら、疫病を予言した白黒二つの頭を持つ鳥を描いている。
また、ヨゲンノトリは2020年の新型コロナウイルス感染拡大時に山梨県立博物館が紹介したことで、広く知られるようになりました。
アマビエと同様に、疫病退散を願うイラストや商品などのモチーフとしても使われています。
別名
- なし
※「予言の鳥」は名称の意味を表す表記ですが、原史料に記された正式な別名ではありません。
関連妖怪
- アマビエ
海から現れ、豊作と疫病の流行を予言した怪異。自らの姿を写して人々へ見せるよう告げた点が共通する。
- 神社姫(じんじゃひめ)
長い体と角を持つ人魚のような怪異。流行病を予言し、自らの姿を見る者は長寿を得ると告げた。
- 件(くだん)
人間の顔と牛の体を持ち、疫病、災害、戦争などを予言するとされる怪異。
- 白澤(はくたく)
多数の目や角を持つ霊獣。病魔や怪異に関する知識を伝え、その姿が魔除けとして用いられた。
妖怪検定ポイント
- 山梨県立博物館所蔵の『暴瀉病流行日記』に描かれている。
- 一つの胴体に白黒二つの頭を持つ。
- カラスに似た姿をしている。
- 安政4年(1857年)12月、加賀国白山に現れたと記録される。
- 翌年8月から9月の疫病流行を予言した。
- 姿を朝夕に仰いで信心すれば、難を逃れられると告げた。
- 熊野七社大権現の神威を示す烏とされた。
- 喜左衛門自身が目撃した記録ではなく、当時の風説を書き留めたものである。
- 「ヨゲンノトリ」という固有名は原史料にはない。
- 2020年に山梨県立博物館が紹介したことで、広く知られるようになった。