
日本の妖怪には、顔の中央に大きな目を一つだけ持つものが数多く登場します。
一つ目小僧のような子ども姿の妖怪、一つ目・一本足で山中に現れる怪物、片目豚のような動物型の怪異、さらには尻に目を持つ尻目まで、その姿と性質はさまざまです。
「一つ目の妖怪」がすべて同じ起源を持つわけではありません。地域や資料によって姿が変わり、一つ目ではない異伝を持つ妖怪もいます。
この記事では、一つ目の姿が伝承や古典の図像で確認できる12体を紹介します。
※一つ目がすべての伝承に共通しない妖怪については、その点を本文中に明記しています。
顔の中央に一つ目を持つ妖怪
1.一つ目小僧(ひとつめこぞう)
分類:人型の妖怪・小僧の妖怪
主な伝承地:全国、特に関東地方

一つ目小僧は、坊主頭の子どものような姿をし、顔の中央に大きな目を一つだけ持つ妖怪です。
江戸時代の怪談や妖怪画では、夜道や屋敷に現れて人を驚かせる、比較的無害な存在として描かれました。
一方、関東地方の「事八日」の伝承では、12月8日や2月8日に家々を訪れ、人の行いを帳面に記して病気や災いをもたらすともいわれます。目籠など目の多い道具を戸口に掲げ、一つ目小僧を追い払う風習も残されていました。
単なる驚かし役だけでなく、季節の境目に家を訪れる恐ろしい監視者としての一面も持つ妖怪です。
2.一目入道(いちもくにゅうどう)
分類:入道の妖怪・水神
主な伝承地:新潟県佐渡市・加茂湖など

一目入道は、頭部に大きな目を一つ持つ、入道姿の妖怪です。「一つ目入道」と表記されることもあります。
佐渡の加茂湖には、一つ目入道の水神が湖の主として住んでいたという伝承があります。丘へ上がって人の馬に乗り、遊んでいたところを飼い主に見つかり、詫び証文を書かされたと伝えられています。
一目入道という名称は、佐渡の水神だけを指すとは限りません。各地では狐や狸が化けた大入道、あるいは地蔵が変じた怪物など、異なる怪異にも同じような名が使われています。
3.青坊主(あおぼうず)
分類:僧形の妖怪・絵画の妖怪
主な資料:鳥山石燕『画図百鬼夜行』

青坊主は、青みを帯びた大きな坊主姿の妖怪です。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では、顔に大きな目を一つ持つ異様な僧形として描かれています。
ただし、「青坊主」という名で語られる怪異は地域によって大きく異なります。荒れ寺や留守宅に現れる大坊主、狸や鼬が化けたもの、一つ目や三つ目に変化する怪物など、必ずしも一眼の姿に限られません。
4.泥田坊(どろたぼう)
分類:田の妖怪・絵画の妖怪
主な資料:鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』

泥田坊は、泥田から一つ目の上半身を現し、「田を返せ、田を返せ」と訴える妖怪です。
鳥山石燕の説明では、苦労して田を残した老人が亡くなった後、息子が酒に溺れて田を売ってしまいます。その田から夜ごと怪物が現れ、失われた土地を返すよう叫んだとされます。
5.夜行さん(やぎょうさん)
分類:鬼の妖怪・禁忌日の怪異
主な伝承地:徳島県

夜行さんは、大晦日や節分など、特定の夜に現れるとされた妖怪です。
徳島県の伝承では、髭を生やした一つ目の鬼が、首のない馬に乗って夜道を進む姿で語られます。出会った人を投げ飛ばしたり、馬に蹴られて命を落としたりすると恐れられました。
草履を頭に載せて地面へ伏せれば助かるという対処法も伝わっています。ただし、出現日や姿には地域差があり、一つ目・首なし馬という特徴がすべての伝承に共通するわけではありません。
一つ目・一本足で語られる山や雪の妖怪
6.一本だたら(いっぽんだたら)
分類:山の妖怪
主な伝承地:奈良県南部・和歌山県熊野地方など

一本だたらは、紀伊山地を中心に伝わる一本足の妖怪です。大きな体に一つ目と一本足を持つ姿がよく知られています。
奈良県南部では、旧暦12月20日の「果ての二十日」に人を襲うとされ、この日は山へ入らないよう戒められました。雪の上に大きな一本足の跡を残すともいわれます。
一本足は名称にも表れる中心的な特徴ですが、一つ目はすべての異伝に共通するわけではありません。猪の亡霊や一本足の鬼など、地域によって姿や由来が異なります。
7.雪入道(ゆきにゅうどう)
分類:雪の怪異・山の妖怪
主な伝承地:岐阜県・飛騨地方

雪入道は、飛騨地方に伝わる一つ目・一本足の雪の怪異です。
積もった雪の表面に大きな窪みが一つだけ残されていると、それは雪入道の足跡だといわれました。妖怪そのものと出会う物語よりも、雪の上に残った不思議な跡から、その存在を想像した伝承です。
姿の細部は多く語られていませんが、「一つ目一本足の雪入道」という簡潔な異形が、雪深い山里の不安をよく表しています。
8.山爺(やまじじい)
分類:山の妖怪・異人
主な伝承地:高知県を中心とする四国地方

山爺は、山中に住む老爺姿の妖怪です。白髪の老人に似ていますが、片目や一本足に見える異形として語られることがあります。
人間を圧倒する怪力と大声を持ち、丈夫な歯で硬いものを噛み砕くともいわれます。一方で、人に穀物の種を与えるなど、山の恵みをもたらす話も残されています。
山爺の外見と性質には地域差があり、一つ目・一本足は全伝承に共通する固定的な特徴ではありません。そのため、本記事では「一つ目の異伝を持つ山の妖怪」として紹介します。
9.山童(やまわろ)
分類:山の妖怪・山の精霊
主な伝承地:九州地方を中心とする西日本

山童は、子どもや猿に似た姿をした山の妖怪です。全身を毛に覆われ、大きな目を一つ持つ姿で描写される例があります。
山仕事を手伝い、握り飯や酒などの礼を受け取る義理堅い存在として語られる一方、約束を破ると怒るともいわれます。また、春に川へ下って河童となり、秋に山へ戻って山童になるという季節移動の伝承でも知られています。
ただし、「山童」は各地の山の怪異を広く指す名称でもあり、すべての伝承で一つ目とは限りません。
一つ目の動物・器物妖怪
10.片目豚(かためぶた)
分類:動物の妖怪・夜道の怪異
主な伝承地:鹿児島県徳之島・阿布木名

片目豚は、徳之島の阿布木名に現れるとされた、一つ目の豚の妖怪です。「一つ目豚」や「ムィティチゴロ」とも呼ばれます。
夜道に現れて人の股の下をくぐり、くぐられた者は命を落とすと恐れられました。これを避けるため、遭遇したときには両脚を交差させたといわれます。
人型の一つ目妖怪が多い中で、片目豚は動物の姿をした珍しい一眼の怪異です。
11.唐傘お化け(からかさおばけ)
分類:器物の妖怪・付喪神
主な伝承地:特定の伝承地なし

唐傘お化けは、古い傘に一本足と大きな目、長い舌が生えた姿で知られる妖怪です。「唐傘小僧」や「傘化け」などとも呼ばれます。
現在では一つ目・一本足の姿が定番ですが、古い妖怪画には二つの目を持つ傘の化け物など、異なる姿も描かれています。また、特定地域の詳しい遭遇譚より、妖怪画や玩具、漫画などを通して広まった図像としての性格が強い存在です。
顔以外に一つの目を持つ怪異
12.尻目(しりめ)
分類:人型の怪異・驚かしの妖怪
主な伝承地:京都府

尻目は、夜道で人を呼び止め、衣服をめくって尻にある大きな目を見せる怪異です。
顔には目鼻がなく、代わりに尻の一つ目が光るとされます。人を食べたり命を奪ったりするのではなく、あり得ない場所にある目を見せて驚かせることが怪異の中心です。
なぜ一つ目の妖怪が多いのか
一つ目は「人間ではない」と一目で分かる印
普通の人間に近い姿でありながら、目だけが一つしかない。その単純な違いによって、一つ目の妖怪は強い異様さを生み出します。
特に妖怪画では、大きな目を顔の中央に置くだけで、遠目にも正体が伝わります。一つ目は、怪異を視覚的に示す分かりやすい記号として定着したと考えられます。
神や季節の来訪者との関係を指摘する説
柳田国男は、一つ目小僧などの一眼の妖怪を、かつて信仰された神や神の使いが零落した姿として考察しました。
事八日に家々を訪れる一つ目小僧が、単なるいたずら者ではなく、人の行いを調べ、病気や災いを左右する存在として語られる点は、季節の来訪神に近い性格を思わせます。
ただし、これは一つ目妖怪すべてに当てはまる確定した起源ではありません。
山の一つ目・一本足と鍛冶を結ぶ説
一本だたらや山爺など、一つ目と一本足を組み合わせた山の怪異もいます。
これらを山の神や鍛冶・製鉄に携わる人々の姿と結びつける説がありますが、地域ごとの伝承は多様です。「一つ目一本足だから必ず鍛冶が起源」と断定することはできません。
妖怪画や現代作品による姿の定着
青坊主や泥田坊は鳥山石燕の妖怪画、唐傘お化けは近代以降の絵や漫画などによって、一つ目の姿が広く知られるようになりました。
妖怪の外見は、伝承だけでなく、絵画・出版・玩具・映像作品によっても変化し、定着していきます。現在よく知られる姿が、すべて古くから同じ形で語られていたとは限りません。
まとめ|一つ目の妖怪は同じ系統とは限らない
一つ目の妖怪には、次のように異なる系統が含まれています。
- 人を驚かせる小僧や入道
- 季節の境目に家を訪れる怪異
- 山や雪の中に現れる一つ目・一本足の妖怪
- 田や土地への執着を表す妖怪
- 動物や古道具が変じた一眼の怪物
- 顔以外の場所に目を持つ滑稽な怪異
一つ目という共通点はあっても、その由来や役割は一様ではありません。
また、一本だたら、山爺、山童、青坊主などは、地域や資料によって一つ目ではない姿も語られます。妖怪を紹介するときは、現在定着したイメージと、各地に残る伝承の違いを分けて見ることが大切です。