
日本各地には、その土地でしか語られていない妖怪や、特定の城・山・島・集落と深く結びついた怪異が残されています。
そこで今回は、北海道から沖縄県まで、47都道府県それぞれを代表する「ご当地妖怪・怪異」を1体ずつ選びました。
選定基準は次の通りです。
- 主な伝承地や出現地域を一つの都道府県に絞れる
- 全国的に伝わる妖怪を、単に「その県にもいる」という理由では選ばない
- 類似妖怪や単なる地方名はできるだけ避ける
- 姿・能力・伝承に、その土地ならではの特徴がある
なお、「ご当地妖怪」は、この記事で用いる便宜的な呼び方です。
北海道・東北地方のご当地妖怪
1.北海道|アッコロカムイ
分類:カムイ・海の怪異
主な伝承地:北海道・内浦湾周辺

アッコロカムイは、内浦湾に棲むとされる巨大なタコのような存在です。
海や船まで赤く染めるほど巨大とされ、海の恐ろしさを象徴するカムイとして語られます。単純な「タコの妖怪」ではなく、アイヌのカムイに関わる存在として区別が必要です。
2.青森県|ずんべら坊
分類:人型の妖怪
主な伝承地:青森県弘前市周辺

ずんべら坊は、美しい声で歌をまねるものの、振り返ると顔に目も鼻も口もない妖怪です。
のっぺらぼうに似ていますが、歌声で人を誘い、顔を見せて驚かせる点に津軽地方の伝承としての特徴があります。
3.岩手県|迷い家
分類:家の怪異・異界
主な伝承地:岩手県遠野地方

迷い家は、山中で道に迷った者の前へ突然現れる立派な家です。
家の中には人の姿がないものの、食器や家畜などがそろっています。そこから何かを持ち帰った者には富がもたらされるとされ、『遠野物語』に登場する岩手県を代表する怪異です。
4.宮城県|タンコロリン
分類:植物の妖怪
主な伝承地:宮城県仙台市

タンコロリンは、収穫されずに残った柿の実が変化したとされる妖怪です。
大きな僧侶の姿で現れるとされ、食べ物を無駄にすることへの戒めを思わせます。柿の産地や屋敷にまつわる仙台のご当地妖怪です。
5.秋田県|三吉鬼
分類:鬼神・山の神
主な伝承地:秋田県・太平山周辺

三吉鬼は、太平山に住むとされる力の強い鬼神です。
酒を好み、人間の仕事を助けることもあるため、単なる人食い鬼ではありません。現在では三吉霊神として信仰されるなど、妖怪と神の両方の性格を持っています。
6.山形県|アマハゲ
分類:来訪神
主な伝承地:山形県遊佐町

アマハゲは、正月に家々を訪れる遊佐町の来訪神です。
怠け者の皮膚にできた火斑を剥ぎ取るとされ、子どもや住民を戒めます。秋田県のなまはげと似ていますが、山形県遊佐町で継承される独自の来訪神行事として扱います。
7.福島県|亀姫
分類:城の怪異・女性の妖怪
主な伝承地:福島県猪苗代町・猪苗代城

亀姫は、猪苗代城に現れたとされる女性の怪異です。
城主や家臣の前に姿を現し、人の死や城に起こる出来事を告げたとされます。姫路城の長壁姫などと並ぶ「城に棲む姫」の一例ですが、猪苗代城との結びつきが明確です。
8.茨城県|夜刀神
分類:蛇神・土地神
主な伝承地:茨城県行方市周辺

夜刀神は、『常陸国風土記』に記された角のある蛇の神です。
葦原や湿地の開拓を妨げ、人間へ災いをもたらしたとされます。開拓する土地と神の領域との境界を示す、古代常陸国の土地神です。
9.栃木県|化け灯籠
分類:器物の怪異
主な伝承地:栃木県日光市・二荒山神社

化け灯籠は、日光二荒山神社に伝わる青銅製の灯籠です。
夜になると不気味な姿へ変化した、あるいは怪しい炎を見せたため、警護の武士たちに斬りつけられたと伝えられます。現在も灯籠には多数の刀傷が残されています。
10.群馬県|茂林寺の釜
分類:器物の怪異・化け狸伝説
主な伝承地:群馬県館林市・茂林寺

茂林寺の釜は、昔話「分福茶釜」の舞台として知られる茂林寺に伝わる不思議な茶釜です。
狸と茶釜が結びついた物語には複数の形がありますが、茂林寺という特定の寺院に根差した伝承として群馬県を代表します。
11.埼玉県|袖引小僧
分類:道の妖怪
主な伝承地:埼玉県川島町周辺

袖引小僧は、夕暮れの道で人の着物の袖を引く妖怪です。
袖を引かれて振り返っても、そこには誰もいません。姿を見せず、袖だけを引いて立ち止まらせるという簡潔な怪異が特徴です。
12.千葉県|カワボタル
分類:怪火
主な伝承地:千葉県・印旛沼周辺

カワボタルは、印旛沼の水辺に現れるとされる怪しい火です。
普通の蛍とは異なり、亡くなった者の陰火ともいわれます。印旛沼という特定の水域に結びついた怪火として採用しました。
13.東京都|足洗邸
分類:屋敷の怪異
主な伝承地:東京都墨田区・本所

足洗邸は、屋敷の天井を突き破って巨大な足が現れる怪異です。
足は「洗え」と要求し、住人が洗わなければ暴れたとされます。本所七不思議の一つに数えられることもある、江戸本所を代表する怪異です。
14.神奈川県|土用坊主
分類:土地神・季節の怪異
主な伝承地:神奈川県相模原市青根周辺

土用坊主は、土用の時期に畑へ現れるとされる坊主姿の怪異です。
土用に土を掘り返したり、農作業をしたりする者を戒める存在とされます。土を休ませる禁忌や地神信仰と関係する怪異です。
中部地方のご当地妖怪
15.新潟県|異獣
分類:山の怪物・未確認動物的怪異
主な伝承地:新潟県魚沼地方

異獣は、魚沼地方の山中に現れたとされる毛むくじゃらの人型の怪物です。
人間の言葉を理解し、食べ物を与えた者の荷物を運んだという伝承があります。凶暴な怪物というより、人間と意思を通わせる山の異人として描かれます。
16.富山県|クタベ
分類:予言獣
主な伝承地:富山県・立山

クタベは、立山に現れたとされる人面獣身の予言獣です。
疫病の流行を予言し、自分の姿を描いて人々に見せれば災いを避けられると告げたとされます。幕末に広まった予言獣の一つです。
17.石川県|猿鬼
分類:鬼・山の怪物
主な伝承地:石川県・能登地方

猿鬼は、能登地方に伝わる猿のような姿をした鬼または怪物です。
土地の人々を苦しめ、最後には退治される存在として語られます。一般的な猿神ではなく、能登の特定の退治伝説に登場する怪物として採用しました。
18.福井県|肉付き面
分類:面の怪異・霊験譚
主な伝承地:福井県あわら市吉崎周辺

肉付き面は、嫁を脅そうと鬼の面をかぶった姑が、その面を外せなくなった怪異です。
面は顔の肉に食い込み、やがて信仰によって外れたとされます。吉崎御坊にまつわる宗教的な教訓話としても知られています。
19.山梨県|蟹坊主
分類:動物の妖怪・寺の怪異
主な伝承地:山梨県の寺院伝承

蟹坊主は、寺に現れて僧侶へ難題を出す巨大な蟹の妖怪です。
黒い僧侶の姿に化けて問答を挑みますが、その正体を見破られて退治されます。寺院の縁起と巨大蟹の怪物が結びついた山梨県の伝承です。
20.長野県|鬼熊
分類:動物の妖怪
主な伝承地:長野県・木曽地方

鬼熊は、長い年月を生きた熊が変化した巨大な妖怪です。
牛馬を襲い、巨大な岩を動かすほどの怪力を持つとされます。木曽の深い山と熊への恐怖から生まれた怪物です。
21.岐阜県|両面宿儺
分類:伝説上の異人・地方神格
主な伝承地:岐阜県・飛騨地方

両面宿儺は、前後に二つの顔を持ち、複数の手足を持つとされる異人です。
『日本書紀』では朝廷に逆らう怪物として描かれますが、飛騨地方では寺院を開き、人々を救った英雄として信仰されています。単純な妖怪や鬼とは分類できない存在です。
22.静岡県|石妖
分類:女性の妖怪・石の怪異
主な伝承地:静岡県・伊豆地方

石妖は、伊豆の石切場に現れたとされる美しい女の妖怪です。
眠っている石工の体を揉むように触れましたが、傷つけられると姿を消し、後には砕けた石が残ったといわれます。採石地の労働と石への信仰が結びついた怪異です。
23.愛知県|布団かぶせ
分類:布・夜具の妖怪
主な伝承地:愛知県西尾市・佐久島

布団かぶせは、夜道を歩く人へ布団のようなものをかぶせる妖怪です。
顔や頭を覆われ、息ができなくなるともいわれます。衾など似た妖怪は存在しますが、佐久島に伝わる名称と出現地の明確さから採用しました。
24.三重県|トモカズキ
分類:海の妖怪
主な伝承地:三重県鳥羽・志摩地方

トモカズキは、海女と同じ姿で海中に現れる妖怪です。
海女へアワビなどを差し出し、受け取った者を深い海へ誘うとされます。海女自身の姿をまねる点に、鳥羽・志摩の海女文化ならではの特徴があります。
近畿地方のご当地妖怪
25.滋賀県|鉄鼠
分類:怨霊・動物の妖怪
主な伝承地:滋賀県大津市・三井寺周辺

鉄鼠は、三井寺の僧・頼豪の怨念が巨大な鼠となった怪異です。
無数の鼠を率い、比叡山延暦寺の経典を食い破ったとされます。大津の三井寺と比叡山を舞台とする寺院間の争いが妖怪化したものです。
26.京都府|火前坊
分類:僧侶の怪異・火の妖怪
主な伝承地:京都府・鳥辺野

火前坊は、京都の葬送地として知られた鳥辺野に現れる、炎に包まれた僧侶姿の怪異です。
修行中に命を落とした僧侶や、弔われない死者の霊と結びつけられています。京都の葬送地に根差した火の怪異です。
27.大阪府|二恨坊の火
分類:怪火・僧侶の怨霊
主な伝承地:大阪府高槻市・茨木市周辺

二恨坊の火は、摂津国に現れたとされる人の顔を浮かべた怪火です。
鳥のように空を飛び、木や屋根の上に止まったといわれます。二つの恨みを残して死んだ修行者に由来するとも伝えられています。
28.兵庫県|長壁姫
分類:城の怪異・女性の妖怪
主な伝承地:兵庫県姫路市・姫路城

長壁姫は、姫路城の天守に住むとされる女性の怪異です。
年に一度だけ城主の前へ現れ、城や領地の運命を告げたともいわれます。姫路城そのものを象徴する城の主です。
29.奈良県|蜘蛛火
分類:怪火・蜘蛛の怪異
主な伝承地:奈良県桜井市周辺

蜘蛛火は、多数の蜘蛛が集まり、一つの火の玉となって飛ぶ怪異です。
轟音を立てながら空を移動したとされ、単なる鬼火ではなく、蜘蛛の群れが怪火へ変わる点に特徴があります。
30.和歌山県|清姫
分類:伝説上の女性・蛇身の怪異
主な伝承地:和歌山県・道成寺周辺

清姫は、僧の安珍への激しい恋慕から大蛇へ変じたとされる女性です。
逃げた安珍を追って日高川を渡り、道成寺の鐘ごと焼き殺したと伝えられます。妖怪というより、執念によって蛇身となった伝説上の女性です。
中国地方のご当地妖怪
31.鳥取県|死人憑き
分類:憑き物・死体の怪異
主な伝承地:鳥取県・因幡地方

死人憑きは、死者の体に何者かが取り憑き、突然動き出すとされる怪異です。
死体そのものが起き上がり、生者へ襲いかかることもあるといわれます。一般的な幽霊とは異なり、遺体が動く点に特徴があります。
32.島根県|影鰐
分類:海の妖怪
主な伝承地:島根県大田市温泉津町周辺

影鰐は、海上に映った人間の影を食べる妖怪です。
姿そのものを襲われなくても、影を食べられた者は命を落とすとされます。影を獲物にするという珍しい能力を持つ、石見地方の海の怪異です。
33.岡山県|貝吹き坊
分類:音の怪異
主な伝承地:岡山県・熊山城跡周辺

貝吹き坊は、山中で姿の見えない何者かが法螺貝を吹く怪異です。
音だけが聞こえ、吹いている者の姿は見つかりません。城跡に残る戦や死者の記憶を思わせる音の妖怪です。
34.広島県|山本五郎左衛門
分類:妖怪の頭領
主な伝承地:広島県三次市

山本五郎左衛門は、『稲生物怪録』に登場する妖怪の頭領です。
少年・稲生平太郎の屋敷へ30日間にわたり怪異を起こし、その勇気を試します。最後には平太郎の胆力を認め、自ら敗北を告げたとされます。
35.山口県|ちんちろり
分類:人型の妖怪・音の怪異
主な伝承地:山口県岩国市周辺

ちんちろりは、夜道に現れる小さな坊主姿の妖怪です。
人が発した言葉を繰り返し、ついてくるように声を返すといわれます。姿だけでなく、言葉をまねる性質が特徴です。
四国地方のご当地妖怪
36.徳島県|麻桶の毛
分類:神体・毛髪の怪異
主な伝承地:徳島県・阿波地方

麻桶の毛は、桶に納められた神聖な毛髪にまつわる怪異です。
盗もうとする者が現れると、毛が伸びたり分かれたりして相手を捕らえたとされます。妖怪というより、神体が自らを守るために起こした怪異と見るのが自然です。
37.香川県|手洗鬼
分類:巨人・鬼
主な伝承地:香川県

手洗鬼は、山や島にまたがるほど巨大な鬼です。
遠く離れた場所をまたいだまま、海で手を洗ったと伝えられます。巨大な体そのものが讃岐の地形と結びついている点が特徴です。
38.愛媛県|金の神の火
分類:神の兆し・怪火
主な伝承地:愛媛県・怒和島周辺

金の神の火は、大晦日などに現れるとされる神聖な火です。
年神や土地の神が訪れる前触れと考えられ、恐ろしい鬼火ではなく、神の来訪を示す光として語られます。
39.高知県|杖立様
分類:路傍神・土地の信仰
主な伝承地:高知県・仁淀川流域

杖立様は、道端や峠などに祀られる土地の神です。
旅人や巡礼者が杖を供えたとされ、土地によっては非業の死を遂げた人物の霊とも結びつけられています。妖怪というより、道と死者に関係する路傍神です。
九州地方のご当地妖怪
40.福岡県|迷い船
分類:幽霊船・海の怪異
主な伝承地:福岡県・遠賀地方の海岸

迷い船は、海上を風向きに逆らって進む、正体不明の船の怪異です。
船から人の声が聞こえることもありますが、近づくと遭難や沈没を招くとされます。盆の時期に現れる死者の船とも考えられています。
41.佐賀県|ダキ
分類:海の女性怪・磯女系の怪異
主な伝承地:佐賀県唐津市・加唐島

ダキは、加唐島周辺に伝わる海の女性怪です。
漁師へ魚を求めたり、長い髪を使って人を襲ったりするといわれます。磯女に近い妖怪、あるいは磯女の地方名と言う説もあり、完全な別種とは断定できません。
それでも、佐賀県加唐島に残る固有の呼称として採用しました。
42.長崎県|ゲドガキのバケモン
分類:人食いの怪物
主な伝承地:長崎県五島列島・福江島

ゲドガキのバケモンは、泣きやまない子どもを脅す言葉から現実に現れた怪物です。
子どもを引き渡すという親の言葉を本気にし、子どもが成長するまで待った後、食べに現れたと伝えられます。親が軽々しく発した約束が怪異を招く昔話です。
43.熊本県|油すまし
分類:山の妖怪
主な伝承地:熊本県天草地方・草隅越

油すましは、天草の山道に現れる妖怪です。
昔ここに油すましが出たと話していると、「今も出るぞ」と答えて姿を現したと伝えられています。現在知られる蓑を着た石頭の姿は、水木しげるの妖怪画によって広まりました。
44.大分県|ケンヒキ太郎
分類:河童・憑き物
主な伝承地:大分県中津市周辺

ケンヒキ太郎は、人間の女性に取り憑いたとされる名前を持つ河童です。
僧侶に追い払われた後、二度と悪さをしないという証文を残したと伝えられています。河童の一種ですが、固有名と証文を残す伝承の珍しさから採用しました。
45.宮崎県|水釈様
分類:蛇神・祟り神
主な伝承地:宮崎県高千穂地方

水釈様は、高千穂地方に伝わる蛇の神です。
野焼きを待ってほしいという雄蛇の願いが聞き入れられず、雌蛇と子が焼け死んだため、作物や家畜に災いが起こったとされます。その後、蛇を神として祀ることで祟りが収まったと伝えられています。
46.鹿児島県|一反木綿
分類:布の妖怪
主な伝承地:鹿児島県・大隅地方

一反木綿は、夕暮れや夜の空を飛ぶ、細長い白布の妖怪です。
人の首や顔へ巻きつき、窒息させたり空へ連れ去ったりするとされます。現在では全国的に有名ですが、伝承地は鹿児島県大隅地方に特定できます。
47.沖縄県|アカングワー・マジムン
分類:マジムン・幼児霊
主な伝承地:沖縄県

アカングワー・マジムンは、幼くして亡くなった子どもの霊が変じたとされる存在です。
赤ん坊の姿で地面をはい、人間の股の間をくぐって魂を奪うともいわれます。日本本土の妖怪とは異なる、沖縄のマジムンに分類される怪異です。
まとめ|ご当地妖怪は土地の歴史や暮らしから生まれる
今回選んだ47体は、単に特定の県で目撃された妖怪を並べたものではありません。
- 海女文化から生まれたトモカズキ
- 城の歴史と結びついた長壁姫や亀姫
- 開拓と土地神信仰を伝える夜刀神
- 山の暮らしから生まれた異獣や鬼熊
- 島の海に現れるダキや迷い船
- 地域の来訪神であるアマハゲ
- アイヌのカムイであるアッコロカムイ
- 沖縄のマジムンであるアカングワー・マジムン
このように、各地の妖怪・怪異には、その土地の地形、産業、信仰、災害、歴史が反映されています。
全国的に有名な妖怪だけでなく、特定の城、山、島、集落にしか残っていない妖怪を知ることで、日本各地の文化や暮らしも見えてきます。